『市街地に出没した熊、無事に捕獲。』 テレビのニュースでこの一言を聞いたとき、その熊がその後どこへ運ばれたか、本当の結末まで知っている人はどれくらいいるでしょうか。「きっと山へ返されたんだろう」と安心するのは、実は大きな間違いかもしれません。
罪のない熊が殺されるのはかわいそう、せっかくの命を無駄にせず保護してほしいという願いがある一方で、現場には「もし放して、また人を襲ったら誰が責任を取るのか」という極めて重い現実が突きつけられています。近年、過去最悪のペースで熊の被害が増え続ける今、自治体はどのような考えで、この命の選別を行っているのでしょうか。今回は、ニュースでは語られない「熊の捕獲後の真実」と、現場の苦悩をどこよりも詳しく明らかにします。
熊を捕獲した後はどうなる?「放獣」と「殺処分」の分岐点
熊が捕獲された後の運命は、大きく分けて殺処分、学習放獣、そして稀なケースとして飼育の三つに分かれます。人里近くで問題を起こした個体は、緊急性と安全確保の観点から、基本的には殺処分されることがほとんどです。

ヒグマやツキノワグマを捕獲した後の主な流れ
熊が捕獲されると、まずはその個体がどのような行動をとっていたかが確認されます。人身被害を出した個体や、家屋に侵入した経歴のある個体は、再び人間を襲う危険性が極めて高いため、被害防止を目的として原則的に殺処分となります。一方で、被害が軽微な場合や、特定の条件下では山へ戻されることもありますが、動物園などで保護・飼育されるケースは、受け入れ側の負担も大きいため非常に限られています。
山へ返す「学習放獣」が行われる条件とは?
学習放獣とは、捕獲した熊に電気ショックなどの強い痛みや恐怖を与える「お仕置き」を行い、人間は怖い存在であると学習させてから山奥へ放す手法です。この処置は、主に人里に出始めたばかりの個体や、特定の被害を出していない個体に対して検討されます。しかし、この方法には限界があり、一度覚えた人間の食べ物の味を忘れられず、再び人里に戻ってきてしまう個体も少なくありません。
なぜ放獣せずに「殺処分(駆除)」が選ばれるのか
放獣ではなく殺処分が選ばれる最大の理由は、住民の安全を守るための緊急性と悪質性の判断にあります。人身被害を発生させた個体や、電気柵などの対策を講じても執拗に執着する個体は、放獣しても再び被害を生むリスクが非常に高いとみなされます。自治体は「今後また人を襲う可能性があるか」を最優先に考え、人の生命に危険が及ぶと判断された場合には、殺処分による取り除きを選択するのが現状です。
熊の殺処分はどうやって行われる?具体的な方法と手順
熊を殺処分する場合、その方法は法律や自治体の定めに従い、現場の安全を最優先に迅速に行われます。主な方法としては、猟銃による銃殺や、特定の条件下での薬殺が挙げられます。
銃殺や薬殺など、自治体で定められた処分方法
一般的に熊の駆除は、狩猟免許を持つハンターによる銃殺で行われます。これは、暴れる熊を確実に、かつ苦痛を最小限に抑えて処分するための現実的な手段とされています。また、市街地などで銃が使えない特別な状況や、罠にかかった状態での処分では、薬剤を用いた殺処分が検討されることもあります。どのような方法であっても、現場には警察や行政担当者が立ち会い、適切な手順が守られているかを確認します。
捕獲した熊を保護・飼育することは可能なのか?
捕獲した熊を殺さずに動物園などで保護するのは、命を大事にするという観点からは理想的ですが、実際には極めて困難です。熊の飼育には年間数百万円から一千万円という莫大な費用がかかるため、引き受け手となる施設がほとんど見つかりません。過去には池上さんという方が保護した子熊の「砂助」が旭山動物園で暮らしている例もありますが、これは非常に稀な成功例と言えます。

殺処分にかかる時間と現場の安全確保について
熊の捕獲から処分までは、数時間から半日に及ぶにらみ合いになることもあります。例えば仙台市の住宅地では、罠にかかった親子の熊が周囲を威嚇し、殺処分が完了するまで六時間もの時間を要した事例があります。現場では、麻酔銃を使用して熊の動きを止めた後に最終的な処置が行われますが、その間、近隣住民の避難誘導や警察による周辺封鎖など、厳重な安全管理が徹底されます。
殺処分された熊のその後は?「食べる」「捨てる」の取り扱い
駆除された熊のその後の処理は、自治体によって考え方が異なります。罪のない熊の命を無駄にしないために、肉を食べたり皮を利用したりすることもありますが、多くの場合は廃棄物として処理されます。
駆除された熊の肉(熊肉)は一般的に食べられる?
殺処分された熊の肉は、適切に処理されれば食用として流通することがあります。いわゆる「ジビエ」として提供されることがありますが、すべての熊肉が食べられるわけではありません。捕獲時の個体の状態や処理施設の有無、衛生基準の問題から、多くの場合は食用には回されず、そのまま処分されることが多いのが実態です。しかし、命を無駄にしないためには、こうした活用も一つの選択肢となります。
毛皮や骨などの部位はどう処理されるのか
食用以外では、熊の毛皮や骨、爪などの部位が工芸品や標本として利用されることがあります。これらは貴重な天然資源として扱われる一方で、その流通には透明性が求められます。自治体や猟友会のルールに基づき、誰がどの部位を取得するか、または公的に廃棄するかといった判断が細かく定められています。

利用されない場合の「廃棄物」としての処分ルール
食用や資源としての利用価値がないと判断された熊の死骸は、一般的に廃棄物として処理されます。具体的には、自治体が指定する焼却施設で処分されるか、特定の場所へ埋却されます。処分の完了が確認されることが、ハンターに報奨金が支払われるための条件となっている自治体も多く、死骸の取り扱いについても厳密な記録が残されます。
熊の駆除報酬はいくら?猟友会への手当と費用の仕組み
熊を駆除するハンターには報酬が支払われますが、その金額は命がけの作業に見合わないほど低いという指摘があり、各地で待遇改善の議論が起きています。
1頭あたりの報酬額(報奨金)の相場
熊を一頭駆除した際の報奨金は、自治体によって大きく異なりますが、おおむね一万円から六万円程度が相場です。例えば北海道の紋別市では六万円、浦河町では一万円といった差があります。この報奨金は個人ではなくチームに対して支払われることも多く、罠の設置手当や、死骸の焼却処分を完了させた後に支給される仕組みが一般的です。
命がけの作業に対して「報酬が安い」と言われる理由
ハンターの活動に対して支払われる手当は、時給換算すると千五百円から二千円程度になることが多く、現場からは「牛丼屋のアルバイト並みだ」という不満の声が上がっています。北海道の奈井江町では、一日八千五百円という報酬提示に対して猟友会が駆除要請を辞退し、議論となりました。命の危険を伴う作業に対して、対価があまりにも低いことが、ハンター不足の大きな原因となっています。
自治体が負担する駆除費用と予算の現状
熊の捕獲費用については、国が支援を行う制度がありますが、実際に山へ放すか殺処分するかを決めるのは各市町村の判断に委ねられています。財政状況が厳しい自治体では、十分な報酬を支払うことができず、地元のハンターにボランティアに近い形で協力を仰いでいるケースもあります。最近では、黒石市のように時給を引き上げる動きも見られます。
なぜ「クマを駆除できない」ケースがあるのか?
住民の安全を守るために駆除が必要な場面でも、法的な制約や物理的な問題によって、すぐには手を下せない状況が存在します。

市街地での発砲制限(鳥獣保護法)による壁
日本の法律では、人家が密集している場所での猟銃の発砲が厳しく制限されています。たとえ目の前に危険な熊がいても、警察官やハンターが自由に撃つことはできません。鳥獣保護法などの法的根拠が必要となり、この制限が迅速な対応を妨げる壁となってきました。なお、二〇二五年九月からは改正法により、市街地でも緊急的に銃猟ができる新制度が施行されるなど、対策が強化されています。
ハンターの高齢化と担い手不足の深刻な問題
熊駆除を支える猟友会のメンバーは高齢化が進んでおり、若手の担い手が不足しています。報酬の低さに加え、銃の所持に関する厳しい規制や、SNSでの誹謗中傷などを恐れて、あえて危険な熊の駆除に関わろうとする人が減っています。このままでは、いざという時に熊に対応できる人材が地域にいなくなるという深刻な事態が懸念されています。
放獣を繰り返すことで発生する「人慣れ」のリスク
一度捕獲して山へ戻した熊が、再び人里に戻ってきてしまうことは珍しくありません。知床の事例では、母熊のMKが人里での味を覚えてしまった結果、その子熊もまたゴミを漁るようになり、母と同じ運命を辿る懸念が示されました。放獣を繰り返すことで、熊が人間を恐れなくなる「人慣れ」が進み、結果としてより危険な個体を生み出してしまうというジレンマが存在します。
「熊がかわいそう」という苦情と自治体の苦悩
熊の殺処分が行われると、自治体には全国から多くの抗議や苦情が寄せられます。「罪もない熊が殺されるのはかわいそう」という感情と、住民の安全をどう守るかという問題は、常に現場を悩ませています。
殺処分に対する電話攻撃(電凸)などの抗議実態
熊を殺処分したというニュースが流れると、その自治体には「なぜ殺したのか」「かわいそうだ」といった電話による抗議が殺到することがあります。中には、現場の状況を把握せずに一方的に担当者を責め立てるものもあり、職員の業務に支障をきたすケースも報告されています。安全な場所から寄せられるこうした声が、現場の決断に心理的な圧力をかけています。
住民の安全確保と動物愛護の板挟みになる現場
自治体の担当者やハンターの中にも、熊を殺したいと思っている人は一人もいません。池上さんも「殺したくない、熊は好きだ」と胸中を語っています。しかし、放置すれば今後また人を襲う可能性を否定できません。罪のない命を奪うことへの苦しみを感じつつも、住民の命を守るために殺処分という厳しい選択をせざるを得ないのが、自治体の基本的な考え方であり苦悩でもあります。
なぜ「麻酔で眠らせて遠くへ運ぶ」のが難しいのか
「殺さずに麻酔で眠らせて遠くへ運べばいい」という意見は多く聞かれますが、現実には非常に困難です。麻酔が効くまでに時間がかかるため、その間に興奮した熊が周囲を襲うリスクがあります。また、運んだ先で別の住民や熊の縄張りとトラブルになるため、受け入れ先の確保ができないという物理的な限界があります。

熊に襲われたプロレスラーの事件とは?過去の悲劇を振り返る
熊の恐ろしさを象徴する事件として、プロレス業界でも活躍した著名人が犠牲になった例があります。
クマに襲われて死亡したとされるプロレスラーの真相
二〇二五年十月、元プロレス団体社長でレフェリーとしても広く知られていた笹崎勝己さんが、仕事中に熊に襲われて亡くなるという衝撃的なニュースが報じられました。笹崎勝己さんは全日本女子プロレス出身で、その後ZERO1の運営会社副社長を務めるなど、格闘界を支えてきた人物でした。屈強な男性であっても、野生の熊の前では無防備にならざるを得なかったという事実は、世間に大きなショックを与えました。
格闘家でも太刀打ちできない「熊の殺傷能力」の脅威
熊の頭蓋骨は非常に硬く、攻撃力は圧倒的です。自衛隊の自動小銃や警察のピストルであっても、急所を正確に射抜かなければ仕留めることは難しいと言われています。笹崎勝己さんのようなプロレス関係者であっても、一度牙や爪の餌食になれば、逃げ出すことは不可能です。熊の殺傷能力は、人間の身体能力を遥かに超越した次元にあることを忘れてはなりません。
過去の凄惨な熊襲撃事件から学ぶべき教訓
笹崎勝己さんの事件だけでなく、過去には多くの凄惨な人身被害が発生しています。これらの事件から学ぶべき最大の教訓は、熊に遭遇しないための徹底した予防と、もし出会ってしまった時の適切な初動です。一度人肉や人間の食べ物の味を覚えた熊は、人間をターゲットとして認識するようになり、被害を連鎖させる性質があります。
まとめ:熊の捕獲後の現実は「共生」と「安全」の厳しい選択
熊の捕獲後の結末は、単なる「殺すか逃がすか」という話ではなく、多くの法的、経済的、感情的な要因が絡み合っています。
私たちは熊との境界線をどう守るべきか
人間と熊の境界線を守るためには、まず熊を人里へ引き寄せないことが不可欠です。生ゴミの放置や安易な餌付けを絶対にしない、屋外にゴミを捨てないといった基本ルールの徹底が求められます。ゴミを適切に管理し、熊に「人間=食べ物」という学習をさせないことが、結果として熊の命を守ることにも繋がります。
最新の熊対策と今後の課題
二〇二五年に入り、熊の駆除件数は砂川市で十件に達するなど、被害は深刻化しています。これに対し、改正鳥獣保護管理法の施行による緊急銃猟制度の導入や、電気柵の設置支援など、国や自治体も対策を強化しています。罪のない熊を殺すのはかわいそうだという感情を大切にしつつ、命を無駄にせず守るためには、私たち人間が熊との適切な距離を保ち続けるための努力が欠かせません。
捕獲された熊はその後どうなるのか?まとめ
- 捕獲後の運命は殺処分、学習放獣、稀に飼育の三つに分かれる。
- 人身被害や家屋侵入歴がある個体は、原則として殺処分される。
- 恐怖を教え山へ戻す学習放獣は、主に被害が軽微な個体に行う。
- 莫大な飼育費用がかかるため、動物園等での保護は極めて困難だ。
- 処分後の熊はジビエとして活用されるか、廃棄物として処理される。
- 駆除報酬は一頭数万円であり、命の危険に対し安すぎるとの声がある。
- 市街地での発砲制限が、迅速な対応を妨げる法的な壁となっている。
- 殺処分への抗議が自治体に殺到し、安全確保との板挟みが生じる。
- 放獣しても人間の味を覚えた熊は、再び人里へ戻るリスクが高い。
- ゴミ管理を徹底し、熊を人里へ引き寄せない予防策が不可欠である。

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